- (2022-08-02 06:01:59)
米国のビジネス文化が興味深い
億万長者グレン・スターンズ氏による「無一文から3ヶ月で1億円企業を創る」を実行するドキュメンタリー。演出として創られた部分も多そうなので、こういう場合、ドキュメンタリーと言うよりリアリティショーと呼んだ方が適切だろう。
エピソード8までのシリーズもの。たまたまYoutubeでアップされていたものを途中から見た。
(なぜ無料で見せてくれるのか、不明だが、ありがたく視聴した)
第一印象
私は半分脚本ありきのショーとして見ていたが、なんと妻が気に入って一気に最終回までいっしょに見てしまった。内心「実際はこううまく行かないよな~」という気持ちで見ていた。
また「3ヶ月」という期間設定が、あまりにも非現実的。
これは能力の問題でなく、「自分がどんなに急いでも、社会は急いでくれない」という現実の話。
自分だけの話なら、飲まず・食わず・寝ず、で奇跡的なスピードアップも、もしかしたら努力でカバーできるかもしれないが、社会や業者はそうはいかないという現実がある。
このようにちょっと冷めた気持ちもあったが、反面、米国のビジネス習慣や文化のダイナミックさがよく伝わってきておもしろかった。
ディスカッション文化に感銘
一番感心した点はとにかくグレンとメンバーがとことん話し合うこと。これは日本の文化にはないやり方で、うらやましい部分。
あういうスタイルは社会の文化的背景も大きいと思う。
欧米社会はギリシア・ローマ時代から続くディスカッション文化がありディスカッションは人々のDNAまで浸透しているようで、子供の頃からごく普通に話し合えるところがうらやましい。
また学校教育でもディスカッションは重視されていると聞く。
人々は話し合いをよくやるし慣れている。
他人を説得するスキルも高いし話し合う労力も時間も惜しまないししかも楽しんでやれるようだ。
日本人だとお酒を飲んでいるときでないとなかなか話せないような内容が、普通に自然な会話になるところに文化の違いを感じた。
人々の能力を引き出すリーダーシップ
このプロジェクトに参加する人々は比較的どこにでもいる普通の人々だが、その人々の能力を引き出すグレンのリーダーシップは実に見事。人は歴史に名を残した人や偉業を成し遂げた天才たちを賞賛するが、案外、天才は私たちの周囲にもそれなりに多く存在している。
町内会のおやじさんや近所のおばさん、親戚のおじさんが実は天才ってことがある。
ただ、ほとんどの天才にはその才能を発揮できる境遇やチャンスがないのだ。
環境と条件さえ整えれば、天才的なパワーを発揮する人は多いだけに残念なことである。
長年サラリーマンとして暮らしてきて同僚や上司や部下を見てきて自分が感じた感触である。
実際、リーダー次第で平均的に見える人間が偉業を成し遂げる事例は歴史を通して多い。
しかし現在の日本企業や日本社会はそういう偉才たちにチャンスや環境を与えにくい構造になっている。
本来有能な人々が無能に近いおじさん・おばさんになりさがって定年まで勤め上げることが平均的な現在の日本の風景だ。
グレンのチームに入ったら人生を変える人間が続出する気がするのだが。
企業評価専門家って何?
あとおもしろかったのが、企業評価担当者リチャードという人。字幕には「Richard Hauser, Valuator」とでていた。
「この人何?」が素朴な疑問。
番組では「地元の企業評価担当者」のような紹介だっけけど、地方自治体の公的な企業評価職なのか?・・米国の自治体では企業評価をする専門家がいるのかのような印象を受けたが、実情はわからなかったし調べなかった。
それとも民間のM&A斡旋会社みたいなものなのか、番組はこの部分をさらっと流してていかにも誰もが知っているかのような扱いで、米国では企業評価担当者ってのがごろごろいるのかも、と空想した。
しかし企業評価って言ったてこの日から営業をスタートするのに評価のしようがないだろうに。
バーベキューコンテストで金賞獲ったしソースなどを全国展開もできるなどという希望的観測を語るグレンに対して「う~ん、企業評価額は50万ドル~100万ドルの間、中間をとって75万ドルってとこかな」だって・・爆笑レベルの適当さである。
まあ、億万長者からした100万ドルも200万ドルも同じ話、こんな適当さでも充分だろう。
不動産売買など本来なら数十ページはあるだろう契約書の作成や締結など面倒な手続きがあるはずだが、まったく登場せず「OK、契約だ、すぐ支払ってくれ」と口頭だけで進むところが視聴者には心地よい。
残る人と去る人
登場人物で印象に残った人の話。ボクにとって一番記憶に残った人がシェフのクリスティーン。
腕は天才的だが、わがままで身勝手。
失敗がないよういっしょに考えて準備しようというグレンの提案に対して自分を信じないのか、それは必要ないと言い張って失敗を繰り返す。
そしていったん失敗すると自分のミスではないと言い訳ばかりの性格が痛々しい。
グレンも彼女の性格を見切り、コンテスト終了後、それとなく自身の店を再開した方がいいのでは?と持ち出そうとした際、察知して自分からすべて投げ出して出て行ったシーンが印象的だった。
彼女は他人から何か言われること(傷つくこと)を極端に恐れているようにも見えた。
もし彼女が「心を入れ替えるからチームに残して欲しい」と嘆願したらグレンとてそれを受け入れただろう。
しかし人の性格は変わらない。問題の解決を先延ばしするだけの結果となるだろう。
だから、プライドを傷つけられそうになった彼女が怒って自ら出て行ってくれたことはグレンやメンバーたちにとって逆に幸いなだったと思うと同時に、クリスティーンが不憫にも感じられた。
(プライドが高い人はここ一番という場面で失敗する)
こういう性格の人はどこの職場にもいる、不憫である。
レストランは長く残るか?
グレンが去った後、このレストランは長年繁栄することができるのか?という疑問は残った。グレンがまとめあげたチームだけに、彼が去った後のチームをまとめる精神的な支柱たる人物はいるのか?
能力の問題ではない。リーダーとして敬愛されるかは生来的な体質に依存する部分も大きい。
そういう体質にある程度恵まれた、かつ、ブランドを守り育てるということに興味と関心があるかという問題。
立ち上げ時の起爆は誰にとってもおもしろいが、本当のビジネスはこれからである。
地味なルーティンワークが続く毎日。そんなルーティンに熱い情熱を投下し続けられる人間は完全なオーナーかそれに近いオーナーしかできないだろう。
・・ということで、現実にはありえない展開だが、ショーとしての楽しさがあった。