プリンタのビジネスモデル
  • (2011-09-10 08:49:30)

極端に安いハードとその後のオペレーションコスト


エプソンやキャノンのインクジェットプリンターの高性能さは感動的。にもかかわらずハードは、極端に安いといつも感じていた。

何と比較して安い?という問題になると根拠も怪しくなるが、過去20年くらいの家電製品の伝統的なビジネスモデルからすれば感覚的に安い。研究開発費の回収ができるのかと心配になる。

しかし、ちゃんと埋め合わせが準備されている。インクである。2〜3回のインク交換でハードの値段を超えるものばかりだ。

新しいインクを購入する段階になって、はじめて「やられた」と感じる。そして、プリンターメーカーは、製造業でなく「消耗品ビジネス」を展開していることに気付く。


囲い込み型ビジネスモデル


しかも自社プリンターに合致する特殊な消耗品(囲い込みモデル)であるため、他社による参入は容易でない。互換インクの製造販売は、どうかするとエプソンやキャノンがやったように訴訟すら起こされる。

消費者はすでにハードを人質に取られているので、にっちもさっちもいかない。

富士ゼロックスのカウンターによるビジネスモデル(コピーするごとにチャージされる)、富士フイルムの消耗品ビジネス(フィルムとその後の印画紙に利益基盤を置く)が思い出される。


フリービー・マーケティング


米国では、この種のビジネスモデルは「Freebie marketing」(フリービーマーケティング)や「razor and blades business model」(替え刃モデル、レイザーブレイズ・モデル)と呼ばれるとwikiに出ていた。

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Freebie marketing, also known as the razor and blades business model,[1] is a business model wherein one item is sold at a low price (or given away for free) in order to increase sales of a complementary good, such as supplies (inkjet printers and ink cartridges) or software (game consoles and games).[1] It is distinct from loss leader marketing and free sample marketing, which do not depend on complementarity.

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安全カミソリを非常に安価または無料で提供し、替え刃など補助品(complementary good)の交換による収益モデルとされる。

安全カミソリのジレット社が始めたビジネスモデルからrazor and bladesと命名されたようだが、実際は違うらしいともwikiには書かれていた。


フリービーとフリーマーケティング、違いは歴然


フリービーマーケティングは、サイプライ品を必要としない「loss leader marketing」(リーダーマーケティング)や 「free sample marketing」(フリーマーケティング)とは明確に異なると明言されているところがおもしろい。

自分も同感だ。

フリーマーケティングは、その後の行動は、消費者に選択権がある。しかし、フリービーマーケティングでは、いわば人質を取られた消費者に選択権は乏しく、敗北感は否めない。

フリービーマーケティングの手法を非難する人は多い。米国ではこういうビジネスモデルに対して訴訟も行われているようだ。エプソンやキャノンも消費者団体に訴訟をおこされているそうだ。


目先の収益には大変すぐれたビジネスモデル


しかし、考えてみれば世の中は、フリービーマーケティングであふれている。掃除機のフィルター、浄水器、空気清浄機、・・・すぐには思いつかないが、とにかくいっぱい。

たいては安価なサードパーティ製のサプライが出回るが、メーカーは「純正品」の有利性を喧伝する。

エプソンやキャノンだけが非難される筋合いはないだろう。それどころか、ビジネスの収益構造を安定させる優れたビジネスモデルであるし、彼らの立場もよく理解できる。


消費者に苦々しい思いをさせるリスク


しかし、私も含めて「やられた」と感じる人が多い点が、ブランドビジネスにとっては痛手と考えられる。

少なくともそういうブランドにプラスの印象を抱く人間はいない。ブランドロイヤルティなど築けるはずもない。

他に有利なライバル製品がでてきたら即刻エプソンやキャノンとはお別れ(ブランドスイッチ)だ!と内心考えながら、毎回苦々しくインクを買い足していく。買うたびに苦々しい思いを繰り返す。

メーカーからすれば消費者があきらめ「そんなもんだ」という心境変化を期待しているはずだが、一部の人には色濃く潜在意識に残るだろう。

目先の利益で彼らは長期的なブランド資産をすり減らしているとも言えるビジネスモデルだ。


最低限の回避策は、事前の周知努力


このビジネスモデルを廃止することなく、かつブランドを守る極めて簡単な手法がある。

それは最低でもインクの買い換えにはそれ相応のコストが発生する事実をハード購入以前に多くの消費者に事前周知する努力。

そういう努力があれば、このビジネスモデルも、わずかな周知コストと買い控えのリスクの割には、ブランドを傷つけるリスクは大きく軽減すると思われる。


わずかな部分でミスを犯す大企業のマーケティング


なぜなら、消費者が苦々しく感じる部分は、実は、コストそのものではなく「ダマされた」という感情の部分にあるからだ。

実にイモーショナルでナイーブな部分で大企業さんは大きなミスをしがちだ。マーケッターも経営幹部もそれはたいていの人が認識していることだろう。にもかかわらず彼らは目先追求に盲目だ。

大企業さんの経営陣はたいてい雇われサラリーマンの身、株主と株価対策のために自分が就任している間に目に見える成果が求められる現代の資本主義では、長期のブランドビルディングなど言ってられない現実がある。

株主が待てる時間は1年、長くて2年。オバマ大統領を見ているとそういうスパンで支持者の意識が変化しているように感じる。

現代資本主義の構造的な問題であり、並の社長程度ではこの問題は理解していてもどうにもできない現実だ。

ブランドビルディングと現代資本主義は、なかなか相性が悪いようだ。



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