バレエ「白鳥の湖」 夢の対価を快く払う人々
  • (2011-10-26 06:03:24)

ブランドを育む日本の女性パワー(2011/10/24)

「白鳥の湖」の会場を埋め尽くす女性達

昨日、府中の森芸術劇場でKバレエ・カンパニーによる「白鳥の湖」を見る。2千人収容できるこの会場に詰めかけたのは見渡す限り女、女、女!だった。

男性は1%以下と思われる。そのわずかな男たちも多くは女房や恋人に引き連れられての来場に違いない。よってこのイベントを支える人々は女性たちである。

彼女たちのお目当ては熊川哲也氏。ステージに現れるだけで会場は異様な盛り上がり見せ、驚かされた。

古典芸術が商業的に成功している世界でも希な事例

Kバレエ・カンパニーの売上や資本金を検索してみたが、見つけだせなかった。2chに年間売上「70億」という発言があったが、2chなので何とも。

昨日の観客動員数から推測すると、15000円 x 2千人/回 x 4回/月 x 12回/年 = 15億円。関連グッズ売上で合計20億といったところか。ざっと見て100人の団員を擁するとして売上規模と社員数はちょっとした企業である。

ビジネス的にはむしろ、関連のスクール事業の方が事業規模も収益性もよいかもしれない。どんな規模なのかと興味が湧く。

Kバレエ・カンパニーの運営会社の資本規模も不明だが、仮に法的に中小企業に分類されたとしても、知名度や企業イメージの点からは平均的な中小企業とは一線を画している。

こういった芸術関連の団体は今時、大企業などのスポンサーなしには継続的な活動は概ね困難な時代。そんな時代に商業的に成功している世界的に珍しい事例と言える。

現実とファンタジーを軽々と切り換える女性達

世界でもこの希有な現象を生み出しているパワーの源泉は日本の女性だろう。彼女たちは日本の芸能人・アーティストはもちろん、韓国の芸能人もサポートするしヨーロッパの、現地ではむしろ存亡の危機にあるような古典的な芸術や芸能もサポートする。

たとえば、「白鳥の湖」はヨーロッパ貴族社会のおとぎ話だ。環境も時代も違う。リアリティは薄く実感や共感できるものはあまりない・・・これが大半の男達の印象だろう。

男という生き物は音楽にしろ映画にしろ、そういう芸術・芸能に夢中になる確率は女性より低い。ただ、いったん、はまればそれが現実の世界で自分の実力に見合う世界かどうかに関係なく、のめり込む人間が少なくない。

そしてそのまま戻ってこれない人間もいる。

しかし女性は楽々と自身をおとぎ話の中に投影できるようだ。そしてステージが終われば難なく現実の世界に戻り、帰り道、スーパーでネギやニンジンを買い込みそのまま夕食の支度だ。彼女たちは夢の世界が好きだが、しかし現実的でもある。

夢を適切に消費する女性達

日本の女性達はどんな世界にでも好奇心旺盛に入り込み、かといって溺れることなく、また気楽に現実の生活に戻ってくる。こういう習性が世界の文化財を保護するパトロン的役割を果たしている。

あの会場に詰めかけた女性達のパワーを見るとこの国が世界的に特異な国であることがわかる。日本は特殊なマーケットであり芸術家にとっておもしろい市場だろう。

街のレストランを育てそして鍛えるのはその街に暮らす住民だが、芸術も同じだ。夢と現実をきちんと分けて適切に消費してくれる住民なしにはレストランも芸術も育たない。

夢の対価を快く払う女性達

彼女たちは日常生活の金銭感覚が厳しい割には夢を見させてくれる人への支払いをためらわない。そして千両役者を育ててくれる。また長い期間ファンでいてくれる。

かといってストーカーのような行為もせずに、夢の対価を快く払ってくれる。Kバレエ・カンパニーの舞台は日本の女性パワーを見せつけられる体験だった。

非現実的な舞台に熱を上げる彼女たちを軽蔑の目で見る人もいるが、分別のある熱の上げ方がアーティストにとって最高のクライアントだ。

こういう文化がある国だからこそ世界的なレベルの芸術が育つ環境が残されている。そしてこの文化は国家や誰かが意図的に育成しようとしてもできる性質のものではない。そういう意味で日本の女性消費者は日本の競争力とも言える。

日本の女性はブランドにとっても大きい存在

また、この現象は製品ブランドにとっても大きな意味があるのではなかろうか。夢の対価を快く払う住民が暮らす日本に、過去数十年、欧米のブランドが熱い視線を送ってきた理由はこれに尽きる。

現在、日本では欧米ブランドは昔ほど「憧れのブランド」ではなくなりつつある。それは彼女たちの鑑識眼の成熟によるものだ。

一部の欧米ブランドは未熟だった日本人に対してかなりチープな販売を行ってきたが、鑑識眼を備えた現在の日本人からはそういう態度はもはや見透かされる。

しかし本物のブランド、夢を見させてくれるブランドなら、日本の女性達はこれからも快く対価を払っていくだろう。ここには芸術だけでなく、ブランドも成長可能な環境があることがわかる。

今後、日本は経済的に貧しくなることが予想されるが、そんな中でも夢の対価を払う人間がこの国には少なくないことが証明されるだろう。日本の歴史はそういう事例で満ちている。

この国のマーケットはおもしろい。資源がない日本が生き残るヒントに思えてならない。

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